歯を残すこと、失うこと

尾崎クリニック 歯科医師の加須屋です。

大学病院からの派遣で、学校歯科検診を経験したことが数回あります。

近年虫歯の数は少なくなり、歯医者での治療経験がない生徒もいるということに驚きました。そんな中で、『口腔崩壊』といわれる多くの進行した虫歯のため、咀嚼が困難で食事ができない生徒が少なからずいるということには、更に驚いたことを覚えています。

1970年〜1980年は子供一人あたり4〜5本の虫歯があること当たり前でしたが、近年は虫歯の数が1本を切っていることが厚生労働省の調査で分かっています。そんな中であっても『口腔崩壊』になるほどの虫歯がある生徒がいることは、単に歯磨き不足ではなく、いろいろなバックグラウンドがあると考えられます。

口腔崩壊の家庭状況は、『ひとり親』『保護者の理解度不足』『経済的困難』が上位を占めています。歯科は何か症状が出ないと受診しない診療科です。要するに、歯が痛い、歯がかけた、歯ぐきから血が出るなどの自覚症状があって初めて受診に至ります。経済的理由で受診せず、また知識が乏しいと、全身への影響はないだろうと思われ安易に考えてしまい、結果として虫歯を増やしてしまいます。このような教育不足、要するに貧困が関わっていることは周知の事実です。『ひとり親』の場合は、時間的余裕がない、仕事を休んでまで連れて行けない、仕上げ磨きができない、やり方がわからないなどの問題点が更なる影響を与えています。

歯には歯根膜というクッションがあり、異物を噛んでも、歯根膜によって「異物を噛んだ、口を開けろ」という反射が起こります。この歯根膜は、体の中で最も敏感なセンサーと言われており、髪の毛が口に入っても感知し脳にその情報を伝えることができます。要するに噛む、咀嚼することで脳が活発に活動していることを意味します。スポーツ選手がガムを噛みながら試合をしているところをよく見かけます。これは科学的に、咀嚼中は脳内の血流量が普段の約20%増加するため、集中力が高まり⇨パフォーマンスが上がることを意味しています。

しかし、歯が抜けると脳への血流量は減少してしまします。28本ある歯が1本抜けると、血流量は1/28に、2本抜けると1/14になることになります。歯から脳への情報伝達がなくなると脳機能は衰退して行くと考えられます。

60歳以上の高齢者では、歯の残存数が20本以上の人と、総入れ歯の人では、認知症発症リスクが約2倍違い、自分の歯で食事することで、記憶力・学習能力の低下が抑制され老化防止の可能性があるとわかっています。平均寿命と健康寿命が長くなることも報告されており、口の健康を維持することが大変重要であることが間違いありません。

子供のころから、口の中の健康が大切であると教える教育を行うことと、成長に応じた口腔機能を育て維持することが、食べる、話す、呼吸するなどの多機能である口腔を長く健康に維持できることではないかと思います。不運にも歯を失った場合は、治療を行い修正、維持することが大切だと思います。

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